障がいも前向きに
東京2020パラリンピック競泳女子・100メートル 平泳ぎで6位に入賞した宇津木美都(うづき みくに)選手。生まれつき、彼女には右腕の肘から先がありません。
(宇津木)「あのお姉さん手が無いとか(子どもは)すごい言ってくるんですけど、私はそれを言われても何とも思わないですし。周りと(手が)短いだけでさほど変わりはないのに、そんなに私に興味を持ってくれているんや。」
自らの障がいについて、朗らかに話す宇津木選手。現在、教員になるという夢と水泳競技を両立しながら、日々邁進中の彼女。夢を追いかけ、前に進み続けるパラスイマーの軌跡に密着しました。
中学2年生でアジア新記録!東京パラリンピック、期待の星に
宇津木選手が水泳をを始めたのは3歳。中学2年生の時、パラ競泳の日本選手権・50メートル平泳ぎで、いきなりのアジア新記録を叩き出します。高校生になると一躍、東京2020パラリンピック期待の星になりました。
(宇津木)「(パラリンピックを意識)してますね、目指すは世界一なんで。」
高校の水泳部では周りを明るくするムードメーカーのような存在。
小学生までは陸上競技をしていた彼女。足の力や脚力には自信があります。
(宇津木)「平泳ぎだけ、唯一足で進む種目なので。平泳ぎであれば自分の個性を活かせるので、平泳ぎが(自分に)1番いいなと」
腕試しにと、健常者の大会にも積極的に出場しました。
(宇津木)「もっといい勝負がしたかったので、本当は勝ちたかった。自分が健常者と戦うときは障がい者だと思っていない。皆と一緒やと思っている感覚があるので。皆一緒なので。」
彼女のレース後の言葉に、悔しさと負けず嫌いがにじみ出ます。
まさかのタイムに、悔し涙
パラリンピックがあと1年に迫る中、競技人生の転機となる出来事がありました。
2019年3月パラ世界水泳選考会・100メートル平泳ぎ。宇津木選手の自己ベストは1分26秒06。派遣標準記録は問題なく突破できるはずでした。ところが、まさかの自己ベストに7秒近くも遅れ、フィニッシュ(1分33秒38)。そんな中、新型コロナの影響で東京パラリンピックの1年延期が決定。宇津木選手の競技人生において長いトンネルの始まりでした。
心機一転、新しい「宇津木美都」で
迎えた2021年。東京2020パラリンピックイヤーの4月、宇津木選手は大阪体育大学に入学します。ここで、復調のきっかけとなる出会いがありました。
女子水泳部の浜上洋平(はまがみようへい)監督は、彼女のまっすぐな思いを受けとめます。
(浜上監督)「開口一番、東京パラリンピックに出たいということを言われたのが凄く印象的で。じゃあ現状レベルどうなのかということ、パラリンピックに出るための(参加)標準記録は何秒かを確認したら、結構(タイム)差があったんですよね。ちょっと頑張れば届くようなレベルじゃなくて。結構大幅にやらないと届かないぐらいの差があったからこそ、思い切って泳ぎも変えられた」
東京パラリンピック選考会まで、残された時間は2か月。2人は相談の結果、フォーム改造に踏み切ります。可能な限り身体を水平に近づけて水への抵抗を少なくすることで、タイム向上につなげようと考えたのです。2か月間、その1点に集中して練習を重ねました。
(宇津木)「相談できる相手は必要かなと。常に練習を見ている人と話せるので【心の支え】というか」
競技人生で初めてともいえるマンツーマンの指導、二人三脚で練習を始めてからまだ二か月でしたが、浜上監督との出会いが宇津木選手を大きく前進させました。
2021年5月、迎えた東京パラリンピック代表選考会。監督と共に作り上げた新しいフォームで、当時、世界ランキング10位のタイムを記録(1分30秒07)。見事、東京パラリンピックへの切符を掴みました。
(宇津木)「中学生の頃は金メダル取るとか世界新取るとか、生意気なことを言っていたので(笑)。できれば(東京パラリンピックでは)5位とか、メダルにできるだけ近い順位で残れればいいかなと思っています」
挫折を乗り越え、辿り着いた東京パラリンピック。夢の舞台で自分のすべてをぶつけます。
新しい宇津木美都として挑んだ、東京パラリンピック。結果は、堂々の6位入賞(1分28秒59)。選考会のタイムをさらに2秒も縮め、力の限り、最高の泳ぎを見せました。
(宇津木)「(東京パラリンピックで)28秒台が出たことも驚きでしたけど、6位だったというのもだいぶ驚きでしたね、自分の中で。すごく大きな自信になりましたし、大阪体育大学に入ってよかったな。」
(浜上監督)「目標にむけて努力をするというのが、彼女の一つの強みだと思っていて。私のアドバイスとか指導に対しても素直にききいれる。そういったところが前提としてあったから、上手くいったと思う。」
水泳競技も、「もうひとつの夢」も
宇津木選手が大阪体育大学を選んだ理由、それは水泳だけではありませんでした。
(宇津木)「小学校の先生になりたいというのをずっと言っていて。両親が小学校の先生で、それに憧れたというのが一番大きな理由なのですけど。あとは、小さい子供がすごく好きで。教える立場になりたいというか。障がいに対してネガティブなイメージを持つ人もいるので、小学校の先生になって、ネガティブな考えをなくしていければいいかなと思ってます。」
持ち前の明るさとポジティブさを交えながら、「もうひとつの夢」を語ってくれた彼女。
ですが、アスリートと勉強の両立は大変そうです。
(宇津木)「国語とか社会とか苦手。【この時の筆者の気持ちを答えなさい】とか、知らんがな(笑)。誰がそんなん分かるねん、筆者ちゃうのに(笑)。」
美都、前へ進みます!
結果と自信を掴んだ2021年、そして迎えた2022年3月。3年前に涙で終えた世界選手権代表選考会に挑みました。かつて、プールサイドで涙した世界選手権代表選考会。パラリンピック後も、新型コロナの影響で練習が満足にできませんでしたが、宇津木選手はスタート台でしっかり前を見据えます。結果は、派遣標準記録突破!(1分28秒86)。
今回は笑顔で水から上がり、ガッツポーズ。晴れやかな気持ちで、6月の世界選手権に挑みます。
(宇津木)「いまの自分の性格がすごく好き。心は大人になりますけど、初心を忘れるべからずというか。常に明るい状態で子供心を忘れずに大人になっていきたい。」
悔し涙をのりこえた先に待っていたのは、大好きな「笑顔の自分」。美都、前へ進みます。前へ、もっと前へ。(読売テレビ 「あすリート」 5月15日放送)
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