障がいと向き合い「前向きに諦めた」

車いすダンサー・神原健太

東京パラリンピックの開会式など、これまで数多くの大きな舞台でパフォーマンスを披露してきた車いすダンサー・神原健太(かんばら・けんた)さん。

ダイナミックな筋肉の動きと繊細な指先の表現、そして強い目力が人々の心を掴みます。神戸市出身・36歳の神原さんは、先天性二分脊椎症という重度の障がいがあり、生まれつき、腰から下がほとんど動きません。

そんな神原さんが、障がいについて一番悩んでいたのは、小学校3年生の頃だったと話します。

(神原)「他の子は歩けるのに自分は歩けない。母親に【一生歩けないのか】と質問すると【歩けない】と教えてもらって。(当時)自分の中ではすごくショックだったので、ワーっと泣いて…。その中で、自分の障がいとどう付き合っていくかをちょっとずつ。大変なことももちろんあるけど、友達と遊んだりとかは楽しいし、障がいと付き合っていくために【前向きに諦めた】みたいな感覚ですね」

「お父さんとしてできること」かけがえのない家族との時間

家族団欒の時間が息抜き

神原さんは4人家族のお父さんでもあります。諦めたこともたくさんありましたが、【できることもたくさんある】と、いつも前向きであることを忘れません。

(神原)「僕自身も一緒に遊んで、楽しくやらせてもらってるので。そういう意味では普通のお父さんと変わらないつもりでいます」

普段はシステムエンジニアとして働く神原さん。そんな神原さんの仕事の息抜きは、長女の汐里ちゃん、生まれたばかりの長男・良太朗くんと触れ合うことです。

(神原)「(良太朗くんを)抱っこしたまま移動はできないので、座布団に載せて引っ張るスタイルで移動しています。普通にオムツも替えるし、お風呂も入れる。娘と良太朗と3人だけで、公園や買い物にも行きます」

「みんな、生きづらさやコンプレックスを持っている」パフォーマンスで壁を超える

「人と違うことが嫌なことにならない社会に」

神原さんと車いすダンスとの出会いは、29歳の頃。ダンス専用の車いすを見たことが、この世界に飛び込んだきっかけでした。

(神原)「ダンスに出会って、【自分の身体の特徴が生きるのはこれだな】っていうのをすごく感じました。僕、あんまり【ダンスで障がいのことを知ってもらいたい】とかがあんまりなくて…。単純に【カッコいいな】と思ってもらえたりすることがいいかなと思っています。【違うことが面白い】みたいな…そういうふうに感じてもらう体験をしてもらえたらいいですね。人と違うことが嫌なことにならない社会になればいいなと思います」

昔は、他の人とは違う身体がコンプレックスだったという神原さん。今は、自分の身体だからこそできる唯一無二のパフォーマンスで、身体表現を芸術と融合させるアートとのコラボレーションにも挑戦します。

そんな神原さんが目指すのは、【パフォーマンスで壁を超える】ということ。去年8月、大阪で開催された「True Colors CARAVAN in Osaka」では、パフォーマンスを観る誰もが、驚き、身体を動かし、何かを感じるような【パフォーマーと観客がシンクロする一体感】を味わってもらえるようなステージを目指しました。

(神原)「こういうイベントって障がい者と健常者が一緒に…みたいなことをよく言いますけど、健常者と言われてる人も結局、生きづらさを持っていたり、人との小さな違いが嫌だったり、コンプレックスがあると思うんです。(このステージが)【(人との)違いがいいな】と思う経験になったらいいなと思います。ありがとうございます」

ステージへの想いをまっすぐに伝えた神原さんについて、共にステージに上がった日本人初の低身長クランパー・DAIKIさんも、このように語ります。

(DAIKI)「子どもたちの中にも障がいがある子だったり、苦しんでいる人たちとか、もがいているけど、どこか皮がむけない人がいます。そんな人たちのきっかけとしても、神原さんの力は必要だし、(このステージが)明日を生きていく元気や、何かを考えるきっかけになれたらすごく嬉しいなと思います」

「嫌だったり恥ずかしいことが、自分の長所に繋がることもある」子どもたちに伝えたい想い

神原さんを中心に笑顔の輪が

神原さんの想いは、ステージの観客だけでなく、学校の子どもたちにも。ある日、埼玉県の小学校をたずねた神原さんは、生徒たちにこのように話しました。

(神原)「障がいのある身体だからこそ気づけたことがあります。例えば、階段を手でのぼることは恥ずかしかったですけど、実はトレーニングになっていました。なので、嫌だったり恥ずかしいことが、実は自分の長所に繋がることもあるし、繋がらないこともあるかなとも思います。また、苦手なことがあるからこそ、苦手な人の気持ちが分かることにも繋がったりします」

神原さんの言葉を真正面から受けとめ、じっくりと耳を傾ける子どもたち。話が終わると、神原さんの鍛え上げられた筋肉を触ろうと、たちまち人だかりが。そこには、笑顔と笑顔でつながるボーダーレスな空間ができていました。

(生徒)「(神原さんの話で)努力すればなんでも出来ると思ったので、努力をして、これからの目標に向かって頑張っていきたいなと思います」

(神原)「(練習が)眠いな、嫌だなと思うこともあるけど、こう言ってもらえると、僕も頑張ろうって思えます。ありがとうございます。僕も頑張ります」

「純粋に聞いてくるのはいいこと」個性輝くパフォーマンスで壁をなくす

個性輝くパフォーマンスで壁を超える

勇気を与えることで、頑張る力をまたひとつ。【前向きに諦める】―これこそが、神原さんの流儀であり、強い覚悟でもあります。

(神原)「自分のダンスの表現の幅が広がることで、よりお客さんに深く刺さるパフォーマンスができると思っています。たくさんの人の心を動かすために、自分自身もレベルアップしていきたいなと思います」

イベント終了後、記念撮影をした小さな女の子が、神原さんに訊ねます。

(女の子)「すごーい!足、どうなってるの?」
(神原)「別にどうなってるってわけじゃないけど、すごーく細いよ!」
(女の子)「生まれた時からそうなってるの?」
(神原)「そうそう!生まれた時からだよ」

純朴な質問に、穏やかな笑顔で言葉を返す神原さん。

(神原)「純粋に【足、なんでそうなってるの?】とか聞いてくるのは、僕はいいことだと思っています。パフォーマンスを通じて壁がなくなるって、まさにこういうことなんじゃないかって思っています。それを、親が聞いちゃダメとか、タブー視するほうが良くないことかなって思います」

車いすダンサー・神原健太さんは、今日も個性輝くパフォーマンスで、心と心の壁を軽やかに超え続けます。

あさ6:00  読売テレビ地上波で放送



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(読売テレビ「あすリートPlus」1月29日放送)

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