プロ選手主体の女子サッカーリーグ「WEリーグ」が誕生し、新たなスタートをきった日本女子サッカー界。
一方、長年支えてきた「なでしこリーグ」も昨季から新しく生まれ変わり、アマチュア主体のチームで1部、2部を編成。WEリーグとなでしこリーグ。様々な思いを持った女子選手たちがピッチを駆け回っている。

今回はなでしこリーグ1部に所属するスペランツァ大阪・種田佳織監督にインタビュー。スペランツァ大阪は今季第9節を終えた時点でリーグの下位に甘んじるものの、将来はWEリーグ参入を目指しているクラブだ。

選手たちには限られた時間の中で、サッカーと仕事の両立など、“アマチュア選手”特有の背景がある。チームの育成方針や将来のビジョン。そして大きく生まれ変わった日本女子サッカー界への期待と展望など多岐にわたり種田監督の思いに迫る。(取材日 2022.5.17)

Q.練習終わりにお時間いただきありがとうございます。今日は朝8時半から練習開始でしたが日々のチームスケジュールはどのような流れですか?
種田監督(以下種田)ー シーズン中は火曜日から金曜日の平日は高槻市の施設を借りて、朝8時30分から11時まで練習をしています。そして選手たちは練習が終わって、昼12時から19時くらいまで雇用先で仕事をしています。今日はグラウンドが全面使えていましたが、日によっては半面がグラウンド・ゴルフで利用されている日があったり、地元のサッカー部が使っていたりと(笑)。でも地域の方にチームを知ってもらえる機会にもなっていますね。

Q.監督業を目指されたきっかけは?
種田- 現役時代、鈴与清水ラブリーレディ―スに所属していた時、来季からチームが休部するという通達がありました。当時の監督と相談した際にサッカーには携わりたかったので、清水エスパルスの「ホペイロ(用具係)」のお話を頂いて、そっちの道にほぼ決まっていましたが、時期同じころに、フジタマーキュリー時代にお世話になった監督に「長野県で女子サッカーチームとして大原学園JaSRA女子サッカークラブを立ち上げるので手伝ってくれ」と誘われて。現役時代にお世話にもなっていたので、それならとエスパルスさんの話をお断りして、長野県に行きました。なので、本来ならサッカーに携わりながらもどちらかと言うと、陰で選手たちを支える役割をと、自分は思っていたんです。

 大原学園JaSRA女子サッカークラブでは、選手数も足りていなかったこともあり、選手兼任監督の日々を送っていたという種田氏。指導者一本で歩む覚悟を決めたのは30歳を目前にした頃でした。

種田- 「30歳という年齢が見えてきたくらいで、チームも選手数が揃うようになってきたこともあり、監督に専念しようと。正直、選手に未練もあって寂しかったんですけど、時々ゲーム形式の練習で最後にゲームに参加したら選手から邪魔扱いされたり・・・笑」

 その後は湯郷Belle、伊賀FCなどで監督、コーチを務める傍ら、2016年には、日本サッカー協会公認の指導者ライセンスS級を取得しました。

種田- 「S級ライセンスへの挑戦は、高い壁とわかっていながらも挑戦できること自体が簡単ではないのと、レベルが高すぎて実際に苦しむことが多かったですが、沢山の学びがあり本当に貴重な時間でした」

Q.2018年から指揮するスペランツァ大阪ですが、今シーズンは厳しい戦いが続いています。現状の思いはいかがですか?
種田- 去年のチームから、レギュラー選手で半分くらい選手が入れ替わりました。いい意味で今年は所属選手も増やしましたし、個性のある選手も多く年齢層や経験値も幅広いなかで、選手たちが切磋琢磨できればという狙いでした。リーグも第9節が終わった段階で振り返ると、“共通理解の徹底”に詰めの甘さがあったと感じています。“共通理解”だけでなく“徹底”となった時に、もちろん選手たちは一生懸命プレーしていますが、リーグが進むにつれ苦しい場面が続くと方向性(共通意識)の矢印が微妙に枝分かれしてしまった感じがあります。ただ、ここ2試合ではだいぶ内容も上がってきています。大切なのは、自分たちの形をどんなチーム相手でも表現できるかだと選手たちには話しています。私は、戦術や細かな技の部分よりもシンプルに、最短コースでゴールをいかに目指すかが最優先だと思っているので、そこを塞がれたらどうするのか?その次どうするか?と、選手にも考える幅の自由度を持たせながら、最後はピッチで選手自身がジャッジしないといけないので戦術的にはシンプルかつ、クオリティーの高いサッカーはしたいですね。難しいことやトリッキーなプレーを重視するのではなく、“全員で攻撃、全員で守備”を軸としアグレッシブなサッカーを目指しています。技術が高い男子サッカーがそうだと思うんですが、“止まって見える”というか無駄が無いように感じるので、最終的な理想はそこですね。「どんな時でも当たり前のことが、当たり前にできるのがスペランツァ大阪だよね」と言われたいですね。

新たにWEリーグが始まった女子サッカー界 & 地元関西サッカーについて

Q.昨秋に新たにWEリーグが開幕して、初代王者も決まりましたが、このサッカー界の新しい動きについてどう感じていますか?
種田- 日本女子サッカー界が大きなチャレンジに踏み出したと率直に感じています。またそこで見えてきた課題もあると思います。私はWEリーグとなでしこリーグのすみ分けをもう少し明確にしていかなければならない事が大きな課題かなと感じています。今後、WEリーグはプロ化を目指していますが、完全なプロチームは現在2チームで、WEリーグに所属するアマチュア選手の行き場、やりとりもスムーズなシステムではなく、両リーグはシーズンの開幕時期も違いますし(※WEリーグは秋春シーズン、なでしこリーグは春秋シーズン)男子だとJ1J2J3、その下に地域リーグと一貫性がありますが、女子サッカーでは、このプロとアマのステージの違いがリーグ名にしても他者が見てわかりづらいというか、これから女子サッカーを知ってもらう人に対しても「何が違うの?」っていう疑問を持つ人が多数いる。なでしこリーグも30年以上続いてきて、浸透している名称なので、もったいなく感じる部分と、WEリーグも選手全員がプロ契約選手という形でやるとか、明確にプロとアマという形にできたらなと思う部分はあります。このような大きなチャレンジをして、仮にうまくいかなかったとしても何がダメだったのかということを分析して、もう一度作り直すこともできるだろうし、そう考えると今回のチャレンジは女子サッカーにとって大きな価値があります。

Q.WEリーグ初代王者のINAC神戸レオネッサやセレッソ大阪堺レディース、ASハリマアルピオン(兵庫)など、同じ関西のクラブにはどういう印象がありますか?
種田- INAC神戸さんは、もともとプロ化の話もしていたし、この時代を見据えて資金もかけて準備とチームを作ってきた印象があります。そのうえで今回優勝することで、これまでのクラブの歴史の中でも大きな勲章を手にしたことと思います。セレッソもクラブポリシーが明確で、育成からしっかり育てて戦うという、歯車が上手く良い結果に繋がっています。方向に向いているなと思います。WEリーグ参入へ手を挙げられているが、セレッソと試合をする度に、新たな刺激とエネルギーを貰える部分が沢山あるので、WEリーグに行かれると少し寂しい部分もありますが、歴史があって、クラブポリシーがしっかりしていることは素晴らしいことだと実感します。ただ関東と違うのは、地域と広さを比較しても、もう少し女子のチームが関西に点在してもいいのにと感じます。兵庫のASハリマが同じステージ(なでしこ1部)にいますが、関東に比べると母数が少ない。それで何が起こるかというと、身近で競争できる相手が少なく、練習試合1つをとって組みずらいので強化の面でいつも試行錯誤しています。WEリーグクラブをはじめ良い見本となるチームが関西にはありますので、それに続いて関西の各地域でチーム数をより増やせていけたらいいなと思いますね。

新しく生まれ変わろうとしているスペランツァ大阪

種田- 自分のプランでは去年1部リーグに昇格し、初年度はまず残留が大事でした。そして今年は中位以上を目指すと目標を立て、私がスペランツァ大阪に来て10年となる4年後にはなでしこリーグ1部で上位に安定している強豪チームになっていたいです。
近年で言うならスフィーダ世田谷FC、伊賀FCくノー三重、セレッソ大阪堺レディースみたいに、常に上位にいれるチームでありたいと思っています。またここ数年はコロナの影響もあり、地域との交流などは難しい面もありましたが、改めて地域との絆も徐々に構築していきたいと思っています。一番は“結果を出すこと!勝つ試合が多く、順位表の上にチーム名があれば、興味を持ってもらえたり、足も運んでもらえるはずなので、注目を集めることはWEリーグであろうと、なでしこリーグであろうと変わらない大切なことだと思っています。

選手たちは、サッカーで濃い時間を過ごしてほしい

種田- 今はWEリーグの方がスピード感、クオリティーは間違いなく一段上だと思っているので、チャレンジできるなら数多くの選手がチャレンジするべきだと思いますが、それは一握りの選手です。このクラブに何年もいて、それほど試合に出れていない選手もいます。私自身、出られなかったらステージを下げて試合に出られる場所に行くという事ももちろん大事だと思いますけど、どれだけ一生懸命、サッカーで濃い時間を過ごせているかという事の方が大事と考えています。それは例えサッカーで花が咲かなくても、セカンドライフにおいて、サッカー以外の選択肢をとったとしても、サッカーを真摯にやってきたことで、いつか何かで自分に返ってくるんだという経験ができる人になって欲しいと思っています。
いずれ、その努力はその人に対して幸福をもたらすというか、なので前向きであって欲しいとは思いますね。

取材 山田芳治 / 撮影 栗山主税

今後の試合日程

第12節 6/05 13:00 vs 愛媛FCレディース 会場:万博記念競技場
第13節 6/12 14:00 vs スフィーダ世田谷FC 会場:味の素フィールド西が丘
第14節 6/18 13:00 vs バニーズ群馬FCホワイトスター 会場:J-GREEN堺S1メインフィールド
第15節 7/3 15:00 vs オルカ鴨川FC 会場:鴨川市陸上競技場

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