父を超え、世界を目指す若きウエイトリフターの挑戦
ウエイトリフティング界期待の星、西川勝之(まさし)選手、18歳(日本大学)。
鍛え抜かれた筋肉から繰り出す圧倒的なパワーと、そのがっしりとした体格からは想像できない軽やかな身のこなし。元重量挙げ選手だった父の指導の下、メキメキと頭角を現し、高校時代は次々と大会記録を打ち立ててきました。そしてこの春、親元を離れ大学へ進学。ハイレベルな環境で、トレーニングに励む日々。
父を超え、世界の扉を開くことが出来るか。若きウエイトリフターの成長を追いかけました。
親子二人三脚 父の背中追いウエイトリフティングの道へ
取材を始めたのは西川選手が高校2年生の時(京都・朱雀高校)。当時はまだ16歳の少年でしたが、筋肉隆々のたくましい体格で、重たい体をものともせずに、華麗なバック宙を披露してくれました。
西川選手が本格的にウエイトリフティングを始めたのは高校から。卒業までの3年間、次々と高校記録を塗り替え続けました。全てを教わったのは、高校の監督でもある父の智之(さとし)さんです。
元重量級の全日本チャンピオンで、自分が出られなかったオリンピックを目指し、父と子、二人三脚で歩んできました。母の真実(まみ)さんもウエイトリフティングの全日本チャンピオン。
サラブレッドとして生まれた西川選手ですが、両親は強制的にウエイトリフティングをやらせようとはしませんでした。
(父・智之さん)「ウエイトリフティングをやれとは言わずに、やっていいいよ、いややったらやめとこうと。それでも、毎回、神社に行くときは世界チャンピオンになれますようにと願ってた(笑)」
(西川)「夢なんかなー、それが。」
(父・智之さん)「そんな重たいもんじゃない。行けたらいいし、嫌やったらやめたらいいし。」
去年11月、西川選手は高校3年生で全日本選手権96キロ級に初出場しました。ウエイトリフティングは、バーベルを床から一気に頭上に持ち上げるスナッチと、いったん肩にあたりでバーベルを受け止め、そこから頭上に持ち上げるクリーン&ジャークの2種目の合計重量で競います。
挑むは2種目トータルでの日本ジュニア記録。常にセコンドについてくれる父は力強い存です。西川選手は、この大会で合計340キロを挙げ、いきなり日本ジュニア記録を更新!社会人や大学生を相手に準優勝に輝きました。
オリンピックはみんなが目指す特別な大会 「自分はまだまだ・・・」
去年の東京オリンピックは、自宅で観戦した西川一家。テレビにむかって、一喜一憂の父と子。仲の良さが伝わります。
(西川)「オリンピックはもちろん出たいです。みんなが目指す特別な大会やと思います。」
高校生の中では敵なしの西川選手ですが、今の自分の実力を冷静にとらえていました。
(父・智之さん)「強いな、強いなってみんな言うてくれるけど、言うても高校生の中だけやろと。」
(西川)「自分は、まだまだやなと思います。世界で戦うにはいろんな所に筋肉をつけないといけない。」
父のもとで成長を続けた高校三年間。その指導方法は選手自身に考えさせる事。迷った時、求められた時にアドバイスを送り、そして見守ります。
(父・智之さん)「上から目線で『やめとけ!』『無理だ!』と押さえつけられるように言われたら面白くないじゃないですか。『本当に出来るのか?』と聞いて、行くと言えば行かしたらいいし、失敗したらなぜ失敗したか自分で考えたらいいし、次、成功するためにはどうしたらいいか考えたらいい。」
親元離れ強豪校へ進学 ライバルとの日々支える父の存在
(父・智之さん)「これからは全部自分でやらないとあかん。」
そう語る父の横で静かにうなずく西川選手。この春、東京にある日本大学へ進学、生まれ育った京都を出て、一人のアスリートとしての一歩を踏み出しました。
大学では寮に入り、6人一部屋、初めての共同生活です。取材班が、部屋を訪ねると、畳敷きの部屋に、それぞれのロッカーが割り当てられていました。
西川選手のロッカーには制服や練習着、アスリートに欠かせないプロテインなど、最小限のものが、きれいに整理されていました。同部屋の仲間ともすっかり打ち解けている様子。楽しそうです。
全国から強豪選手が集まる日本大学ウエイトリフティング部。西川選手は力自慢の部員の中でも群を抜くパワーの持ち主です。
練習中、誰も挙げられない自己ベストのスナッチ163キロを持ち上げて見せると、どよめく部員たち。並外れた身体能力に皆、舌を巻きます。
レベルの高い環境で切磋琢磨する日々。西川選手の更なる成長を後押ししているのはやはり、父・智之さんの存在でした。
(西川)「多分、父に教えてもらわなかったらここまでやってないですし、高校で辞めてると思うので、自分でもここまで強くなると思ってなかったですし。」
2度目の全日本 目標は「父のために父を超える」
大学生になって最初の大会は4月の全日本選手権。父がセコンドにいない、初めての公式戦です。
去年は準優勝だった西川選手。スタンドから見守る智之さんの声援にこたえ、スナッチ・156キロ クリーン&ジャーク187キロを持ち上げ、合計343キロ。自らが持つジュニア記録を更新し、初優勝。
見事、全日本選手権のタイトルを勝ち取りました。しかし、西川選手には目指すべき目標があります。
(西川)「今年度で親父の記録(スナッチ165クリーン&ジャーク205)を抜く。それが抜ければ自分の中では一番いいかなと思っています。自分の記録を見た時に父の現役ベスト記録が一番近いので、また18年間育ててもらった恩もあるので。」
(父・智之さん)「あいつが今のフォームで僕の記録を抜いたら、僕が教えたことが正しかったんやろなと思えます。だから抜くならば、ちょっとだけ抜くのじゃなくて、ガツンと抜いてほしいですよね。」
世界へ行くために父を超える。そのチャンスは7月にやってきました。神奈川県で開催された東日本インカレ。96キロ級一種目のスナッチで155キロを挙げ、いきなり大会新記録をたたき出しました。
スナッチの1位を確定させると、いよいよ、父の現役時代の記録・スナッチ165キロに挑みます。スタンドから見守る智之さん。息子が自分を超える瞬間が迫り、焦る様子を見せながらも、その表情は期待に満ちていました。
(父・智之さん)「165きた!やばい!俺の記録に追いつかれる!(笑)いいぞ!やれやれ!」
165キロのバーベルに手をかける西川選手。前を向いて目を見開き、一気に頭上へ!しかし、そこから立ち上がることが出来ず、バーベルは床へと沈みました。
目標としていた父の記録を超えることはできませんでしたが、競技を終えた西川選手の表情は笑顔。すこし悔しそうに天を見上げながらも、やり切った様子で会場を後にしました。一方の父・智之さんは、
(父・智之さん)「引きの練習が足りないな。まだまだお父ちゃんには敵わんな。」
と笑いとばしながらも、自身の記録に挑むまでに成長した息子を心から讃えているようでした。
(母・真実さん)「記録を狙っただけいい。」
(父・智之さん)「そうそう、狙っただけいい!」
父を超え世界へ
続く二種目。2段階でバーベルを持ち上げるクリーン&ジャークでは185キロを成功させ、トータル340キロと、大会新記録を更新し、圧勝しました。
(西川)「大会中、父の声は全然聞こえなかったです。どこにいるかもわからなかったので、その声が聞こえていたら違っていたのかなとは思います。今回、失敗はしたかもしれないですけど成功に近い失敗だったかなと思います。」
(父・智之さん)「ああもう、上出来です上出来!」
(西川)「よういうわ!」
(父・智之さん)「まだまだ僕には敵わないですけど、早くかかって来いよ(笑)」
相変わらずの仲良し親子。互いを尊重し、信頼に満ちた親子関係こそが西川選手のパワーの源。18歳のウエイトリフター。父を超えた先に、世界が待っています。
(読売テレビ「あすリートPlus」7月31日放送)
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