苦悩と喜びの日々

東京五輪代表 一山麻緒選手(資生堂所属)

おととし3月、名古屋ウイメンズマラソンでの劇的な勝利で東京オリンピックへの出場を果たした鹿児島県出身のマラソン選手、一山麻緒(25歳)。

一山 「もし、ここでオリンピック出場を決められなかったら、別の道を考えるか、それとも環境を変えるか、それぐらい本当に自分に懸けていた部分があったので、やってきてよかったなって思いました。」

喜びから一転、オリンピックの開催を反対する声が、麻緒を苦しめます。見えない敵との戦いが続く中、それでも前を向いて、五輪の舞台を走り切りました。

次なる目標、パリ五輪を前に彼女が下した決断とは?シンデレラガールの一年半を追いました。

優勝しても悔し涙 納得の走りを目指して

長崎・五島でのトレーニングにて

麻緒が陸上を始めたのは小学5年生。理由は「運動会で1等賞をとりたかったから」だといいます。
高校時代は無名でしたが、卒業後の2016年に実業団のワコールに入社すると、見る見るうちにその才能を開花させ、マラソンを主戦場とし、日本のトップを争うまでに成長しました。

優しい笑顔でほんわかとした雰囲気の麻緒ですが、実は根っからの負けず嫌い。その一面が見えたのは、去年1月の大阪国際女子マラソンです。
タイムは2時間21分11秒、2位に2分以上の差をつけて優勝したものの、その表情は硬く、レース後には悔し涙を流しました。

一山 「今、自分がこのぐらいでしか走れないっていうのがわかったので、もっともっと強くなれるように、これからまだまだ頑張っていきたいと思います。」

オリンピックで輝くためには、この結果では不十分。欲しいのは日本一ではなく、確固たる自信でした。続く5月、札幌でのハーフマラソン(2021年5月「北海道・札幌マラソンフェスティバル2021」)。
ライバル、松田瑞生(みずき)選手と激しいデッドヒートを繰り広げながらも、日本歴代記録8位の1時間8分28秒で、ハーフマラソンの自己ベストを更新し優勝。レース後は笑顔でした。

一山 「この残り3か月でしっかり状態を少しずつ上げていって、オリンピック本番では皆さんに、私らしい元気な走りがお見せできたらいいなと思います。」

「五輪ムリ」オリンピック開催反対の声に苦悩する日々

不安を抱える日々

自信を胸に、順風満帆に見えた東京オリンピックへの道でしたが、そこには知られざる苦悩がありました。去年5月の「関西実業団陸上」終了後、記者から今後の目標を質問され、言葉に詰まります。

一山 「目標は…ちょっと今このような時期なので、不安もあったりするんですけど。オリンピックを反対されている方もいるのは、私も知ってるので、そういった方にも私の走りを見て、やっぱりオリンピックっていいなと思ってもらえるような走りができたらいいなと思います。」

5月の札幌ハーフマラソンで突き付けられた現実。コースの沿道に「五輪ムリ 現実見よ」と書かれたプラカードを掲げる人の姿を見て大きなショックを受けました。ライバルや自分自身ではなく、見えない敵との闘い。

東京オリンピックは、あと3か月に迫っていました。

前代未聞の過酷さ レース後は喜びの涙 

東京オリンピックを終えて

世間で様々な意見が飛び交う中、2021年8月7日。東京オリンピックが開催されました。スタートラインに集結する世界最高峰のランナーたち。麻緒は、笑顔を見せながらも、少し緊張気味の様子です。

レースがスタートし、序盤は前田穂南(ほなみ)選手、鈴木亜由子(あゆこ)選手がリード。麻緒はその後ろで様子を伺います。当日の暑さを考慮し、レース前夜に突然、スタートを1時間前倒しすることが伝えられました。
しかし、真夏の日差しは容赦なく選手らを照り付け、気温は30度近くまで上昇。前代未聞のマラソンは過酷さを増します。そんな環境で、しのぎを削り走り続ける選手たち。

終盤、レースは動きます。32kmを過ぎ、他の日本人選手が遅れる中、麻緒は必死で先頭集団に食らいつきます。暑さに耐えて腕を振り、前へ、前へ。
そして、見事、日本人選手として17年ぶりの8位入賞を果たしました。タイムは2時間30分13秒。レース後に見せたのは喜びの涙でした。

一山 「今までこの大会に向けて、スタッフや、近くにいない人もずっと支えてくれていたので、その人たちの顔を見たら、もうちょっと走らなきゃいけないと思って。最後まで諦めずに走りました。」

日本最速夫婦の誕生 2人で目指すパリの表彰台

2021年12月 マラソン日本記録保持者、鈴木健吾選手と結婚

苦悩を乗り越え、走り切った麻緒。オリンピックから3週間後、新たな思いが芽生えていました。

一山 「表彰式がすごく素敵で。メダルを取った選手ってすごくキラキラしてるなって。すごくいいなって思いました。メダリストにすごく憧れを持ってしまったので、パリではメダルを目指して頑張りたいって本当に思います。」

その年の12月、マラソンの日本記録保持者で、ふたつ年上の鈴木健吾選手(26歳)との結婚を発表。マオとケンゴ、日本最速夫婦の誕生です。

一山 「一緒に過ごしていて、とても尊敬できる所がたくさんあるので、2人で頑張っていきたいと思います。」

鈴木 「同じマラソン競技を主戦場にしているので、同じレースで優勝したり、同じ時に代表になることができたら最高なんじゃないかなって思います。

彼女の決断 「競技人生はパリまで」

 

競技人生の集大成となるパリ五輪


次なる目標“オリンピックの表彰台”を目指し、世界への挑戦が再び始まりました。

今年3月、夫婦で挑んだ「東京マラソン」。世界選手権の切符をかけた大事なレースです。最大のライバルは、東京オリンピック1万メートル代表で、日本記録保持者の新谷(にいや)仁美選手。
序盤から激しいデッドヒートを繰り広げ、先行する麻緒に、新谷選手は後をぴったりとマークします。新谷選手との一騎打ち。39km過ぎ、勝負をかけ、前に出る麻緒。新谷選手を引き離し、その差を10秒以上広げます。そのまま独走を続け、日本人最高位の6位でフィニッシュ(2時間21分02秒)。

一方、夫の鈴木選手も、日本人最高位の4位入賞(2時間5分28秒)を果たし、夫婦そろって世界選手権への切符を勝ちとりました。
互いの健闘をたたえ合うマオとケンゴ。同一大会での夫婦の合計タイムにおいて、ギネス世界記録も更新し、競技者として最高のパートナーとなった二人。

しかし、麻緒の競技人生に一つの節目が訪れようとしていました。マラソン選手としての人生をパリ五輪で終えると決めていたのです。

一山 「もう大きなイベントはパリオリンピックまでって決めているので、それが終わったら、子育てしたいなと思っています。彼が競技を続けるならサポートに回ることも考えますね。競技からは離れるかなって、今のところは思っています。」

夫婦でオリンピックの舞台へ。競技者としての人生を見据え、パリへと続く期間限定のマラソンストーリー。
2年後、麻緒は、どんな輝きを見せてくれるのでしょうか?

(読売テレビ「あすリート」5月8日放送)

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