「自分でもびっくり」 日本人4人目の12秒台ハードラー・田中佑美

田中佑美選手(大阪出身 関大一高ー立命館大学 富士通所属)

今シーズン、陸上界で大きな盛り上がりを見せているのが、女子100mハードル。スプリント種目において世界レベルに最も近いと言われており、高い注目を集めています。そんな中、今年ブレイクを果たしたのが、富士通に所属する田中佑美選手です。

茨城県の筑波大学を拠点に、日々実力を磨く24歳の田中選手。今年の国内初戦の織田記念で、大雨が降りしきるコンディションの中、日本人4人目12秒台で優勝!一躍トップハードラーの仲間入りを果たしました。心境は…。

(田中)「自分でもびっくりしました。【あ~、うそ~!】っていう感じで…。ハードルが次々と迫ってくる感じだったので、こけてもいいから走ろう、こけてもいいから跳ぼうって思って一生懸命ゴールしたら、12秒台だったって感じですね」

ルーツは小学生からのポテンシャルとクラシックバレエ

強豪・立命館大学での4年間が糧に

番組が初めて田中選手を取材したのは、5年前。当時、立命館大学に通う大学生だった田中選手に自身の強みについて聞くと…。

(田中)「自分は【ここがダメ】っていうのはすぐに出てくるんですけど、ハードルに関しては自分のいいところがわからないので、褒めてもらえるとすごく喜びます。【ほんまに?ほんまに?】って言いながら喜ぶと思います。」

謙虚さと陸上に対するまっすぐな姿勢が魅力の田中選手。彼女の原点は幼少期にあったと話します。

(田中)「中学から陸上を始めたんですけど、(自身の陸上のルーツは)小学校の時から少し足が速かったっていうことと、【昔、クラシックバレエをしていました】と言うと【柔軟性があるからハードルが向いてるよ】とおっしゃってくださって、ハードルを始めました」

4歳から10年間続けてきたクラシックバレエでの柔軟性を生かし、中学からハードルの道に進むと、瞬く間に才能が開花。高校時代にはインターハイ2連覇、大学でも関西インカレ4連覇、日本インカレ優勝など、学生トップを走り続けました。そんな彼女の素顔をチームメイトは…。

(チームメイト)「(田中選手は)かまってちゃん!」
(田中)「自分でもかまってちゃんだと思います(笑)」
(チームメイト)「お昼の時間になったら絶対LINEが来ます」

勝負強さも、人懐っこいお茶目な部分も兼ね備える田中選手。最終学年では陸上部のキャプテンも務め、人間的にも大きな成長を遂げました。

「全然うまいこといかん」 未熟さを痛感、自信喪失…社会人選手としての試練

苦しかった社会人1年目


大学卒業後は陸上の名門・富士通へ。さらなる高みを目指し、単身で関東に拠点を移す決断をしました。

(田中)「(富士通に進むにあたって)寺田明日香選手をはじめ、自分にとって憧れの選手ばかりだったんですけど、もう憧れてます、って言える立場ではなくなってしまったなと改めて感じています。他人がどうということではなく、自分が今まで憧れていた選手のようになれるように、頑張っていこうと思います」

実業団選手としての覚悟と期待を背負って迎えた社会人1年目でしたが、結果は思うようについてきませんでした。予選落ちなど、成績が振るわない日々が続き、試合後のインタビューでも悔しさとやるせなさが滲みます。

(田中)「うまいこといかん!全然うまいこといかんですね…。大変悔しいレースでした。周りのみんなもいいタイムを出しているので、いつも通りに走っていたら簡単に落ちてしまうんだなって改めて実感しました」

そんな田中選手の不安や焦りをあおるかのように、ハードル界のレベルはぐんぐん上昇。憧れだった寺田明日香選手が、日本人で初めて13秒の壁を破り歴史を動かすと、その記録に引っ張られるように12秒台ハードラーが続出。青木益未選手が日本記録を更新すると、さらに福部真子選手も12秒73という日本記録を樹立しました。記録更新のラッシュで激戦区となったハードル界。先輩たちの背中が遠のいてしまった、そう感じたという当時の心境は…。

(田中)「社会人1年目は個人的に苦しかったですね。ハードル界自体もかなりレベルが上がっていて、予選落ちや負ける経験が増えたことが、自信を失った1つの理由だったと思います。アスリートとしての未熟さみたいなものも同時に感じて、自信を失っていた期間ではありました」

「技術や観点が変わった」 新天地での新たな出会いと変化

師匠・谷川聡コーチとの出会いが変化をもたらした

関東に拠点を移し、新しい視点を求めて指導を仰いだのが谷川聡(たにがわ・さとる)コーチでした。オリンピック出場経験もあるハードル界の第一人者は当時の彼女について、このように話します。

(谷川コーチ)「彼女にとって最初の2年は長かったと思いますね。でも、一筋縄では強くならないと思ってこちらに来たので。私は、これをやったらいいよっていうのは全然なくて、それよりも、自分のことをちゃんとわかっているか、見えているものが同じなのかっていう会話の方が多かったですね」

自分に足りないものについて、立命館大学で4年間で築き上げてきたものをベースに自ら考え、向き合うことから始めた田中選手。大学時代と比べて、新しい気づきや学びも多かったといいます。

(田中)「メニューを100%、谷川先生に立ててもらっているわけではなくて、基本的には自分で大軸みたいなのをお話させていただいて、細かいことは自分でやっているので、大学時代とまったく違うことをやっているわけではないです。私は立命館でできているので、自分の中に蓄積されたものを使っているっていう意味では大学時代とは変わっていないですけど、意識している技術や観点みたいなものは、結構変わりましたね」

フォームについても、発見と改善があったと話します。

(田中)「谷川先生曰く、私も自覚していた通り、基本的なことができていないとのことでした。谷川先生に横を向いて走っていると言われたんですが…。スピードが出てくると、左足がリード足(前の足)なんですけど、左半身だけハードルに向かっていて、反対側の足が戻ってこなかったんですよね。でも、今はちゃんと戻ってくるから最後まで走れるようになりました」

谷川コーチと二人三脚で2年間取り組んできた田中選手。今シーズンでの12秒台突入を皮切りに、試合出場のたびに自己ベストを更新するなど、日本トップとの距離がぐっと近づきました。

「お祭りだと思って楽しみたい」世界への想い胸に飛躍

次の舞台は世界

今年は国際大会が目白押し。先月、国際大会の選考も兼ねて行われた日本選手権では、日本のトップスリーの一角を崩し、3位以内に入るのが絶対条件でした。プレッシャーと期待を胸に迎えた決勝では、トップ4人が横一列にフィニッシュ。

「ずっと御祈祷していた」と話すように、神妙な面持ちで座り込んで結果を待っていた田中選手。4人が12秒台の激戦の中、優勝は寺田明日香選手。田中選手は惜しくも寺田選手と100分の1秒差で3位。目標としていた3位以内を見事勝ち取り、アジア大会の日本代表に内定。世界選手権出場への望みも繋げました。

(田中)「日本選手権の方がよっぽどプレッシャーもかかって、負けられない戦いなんですけど、海外の大会はそういうところもなく、どこまでもチャレンジャーとして走ることができるので、お祭りだと思って楽しみたいと思います」

地道な努力が実を結び、ついに花開いたハードラー・田中選手。次に待つハードルは、世界という大舞台。彼女の快進撃はまだ始まったばかりです。

毎週日曜日 あさ6:00  読売テレビ地上波で放送



新番組 「あすリートPlus」 は、読売テレビで毎週土曜日に放送中の「あすリート」の拡大版として、
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(読売テレビ「あすリートPlus」7月9日放送)

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