日本で最も有名な柔道兄妹 阿部一二三&詩

パリオリンピック代表内定会見での阿部一二三選手と詩選手

パリオリンピックの開催まで1年を切りました。ことし6月、日本柔道史上最速で代表内定を決めたのが、神戸出身の兄妹、男子66kg級の阿部一二三(ひふみ)選手と女子52kg級の詩(うた)選手です。

試合前に大きく口を開ける独特のルーティンや恐ろしいほどの切れ味など、兄妹の柔道スタイルはそっくりです。日本で最も有名な柔道兄妹のこれまでの歩み、そしてパリオリンピックを目指す道のりを辿ります。

なかよし兄妹の絆が紡いだ成長と強さ

妹・詩選手に稽古をつける一二三選手

兄の一二三選手が最初に注目されたのは、神港学園高校柔道部キャプテンだった2014年。柔道界を揺るがす怪物高校生が神戸に現れたと話題になりました。高校2年のインターハイでは、投げ技だけでオール1本勝ち。圧倒的な優勝に柔道関係者たちも驚きを隠せませんでした。

その年、講道館杯、グランドスラム東京とシニアの大会にも出場し、立て続けに史上最年少優勝を果たします。一躍、東京オリンピックの星に名乗りを上げました。

(一二三)「柔道と言ったらやっぱり1本を取るというか…投げたら見ている人も嬉しいし気持ちいいし、自分が1番投げた時に嬉しいし気持ちいい」

3歳下の妹・詩選手は2016年に夙川学院高校の柔道部に入部しました。当時から兄譲りの切れ味を持つ実力者。得意技は、豪快な投げ技の袖釣込腰(そでつりこみごし)です。

(詩)「好きな選手は、お兄ちゃんです」

(一二三)「自分の妹としては可愛いなと思います。柔道は正直、強いなと思います」(大学1年生時)

仲のいい兄妹の絆を示すエピソードがあります。詩選手が優勝候補として臨んだ高校1年のインターハイのことです。1回戦で相手に足をかけたところで禁止技の河津掛の反則を取られ、まさかの敗退。初めて大きな挫折を味わいました。

立ち直れずしばらく落ち込み続ける詩選手の前に現れたのが、日本体育大学に進学し東京に住んでいた兄の一二三選手です。詩選手の練習相手となり、ひたすら投げ続ける。無言で喝を入れました。

(一二三)「ここで挫折するんじゃなくて、このインターハイの負けがあったから成長できたと言えるくらいになってほしいと思います」

(詩)「少し調子に乗っていた部分もあって…4年後の東京オリンピックは試合がお兄ちゃんと一緒の日なので、2人で出て優勝して、両親を喜ばせることが目標です」

兄妹の夢を叶えるため、詩選手は歯を食いしばって練習を耐え抜きました。その結果、高校3年で世界選手権に初出場。オール1本勝ちで、一二三選手と兄妹同時優勝を果たしました。

兄妹にとって忘れられない2020東京オリンピック

インタビューに答える阿部一二三選手・詩選手

2020年2月、詩選手は東京オリンピック代表に内定しました。しかし、会見に兄・一二三選手の姿はありませんでした。まだ代表内定が決まっていなかったこともあり、阿部家で東京オリンピックの話はそこまでしなかったと言います。

(詩)「私にできることはお兄ちゃんを信じて待つだけなので…お兄ちゃんなら絶対に決めてくれると信じています」

一二三選手の男子66kg級は、男女計14階級で唯一代表が決まっていませんでした。最終選考は日本柔道初のワンマッチ対決。これまでの戦績3勝4敗のライバル、丸山城志郎(じょうしろう)選手との一騎打ちが12月に行われました。

(詩)「目をつむっている間に終わってくれという思いで見ていました」

息づまる試合は延長戦に入り、20分近くが経過。お互いの体力が限界に近づいた頃、一二三選手が仕掛けました。大内刈りが技ありの判定となり、優勢勝ち。ついに東京オリンピック代表の座を勝ち取りました。

そしてコロナ禍で1年延びた東京オリンピック。順調に勝ち進んだ阿部兄妹は、ともに決勝戦へと駒を進めました。先に畳に上がったのは女子52kg級、妹の詩選手。延長8分27秒を戦い、崩袈裟固(くずれけさがため)で1本勝ち、金メダルを獲得しました。

詩選手がメダル獲得を決めた32分後、今度は兄の一二三選手が同じ舞台へ上がりました。大外刈りが技ありの判定で、優勢勝ち。オリンピック史上初の兄妹同時金メダルを達成しました。

(一二三)「先に妹が決勝戦をやって、先に金メダルを取って、僕はすごく燃えたというか、もう絶対やるしかないという気持ちで。プレッシャーなんか全然なかったです」

2人の夢は、最高の形で実を結びました。

阿部兄妹が目指すオリンピック連覇、そしてその先へ

「ABE CUP」での阿部一二三選手・詩選手

ことし3月、妹の詩選手は日本体育大学を卒業し、兄・一二三選手と同じ実業団に所属することになりました。
6月には、子どもたちに柔道の楽しさを伝えたいという思いから兄妹で発案し、地元・兵庫で小学生対象の柔道教室と柔道大会「ABE CUP」を開催しました。

参加した子どもからの「パリオリンピックで金メダルを取りたいか」という質問に対して、詩選手が答えました。

(詩)「みなさんがパリオリンピックの金メダルを見たいなら、取って帰ってきます!」

(一二三)「兄妹でオリンピック2連覇したら本当にすごいことだと思うので、そこを目指します。そして、まだまだできると思うなら、5連覇、6連覇…分からないですけど、人間の可能性というものを見せたいですね。言うて、44歳か43歳くらいですよね、6連覇って。いけるやろ(笑)」

(詩)「もちろん連覇も意識して頑張っていきたいんですけど、いつか自分の道場を持つとか、子どもたちに柔道の楽しさとか素晴らしさを広げていけるような、そういう人間になりたいなと思っているので…そのビジョンのためにパリオリンピックで2連覇しないといけないですね」

パリ、そしてその先へ。阿部兄妹の快進撃はまだまだ続きます。

毎週日曜日 あさ6:00  読売テレビ地上波で放送



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(8月6日放送)

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