苦悩と葛藤の日々 オリンピックを経て選んだ道とは?
バレーボール日本代表、石井優希選手(31歳)。リオオリンピック、東京オリンピックと2度の五輪出場を経験し、神戸市に活動拠点を置く、久光スプリングスのエースアタッカーです。
東京オリンピックの延期が決まり、彼女が過ごした葛藤の日々。不安を抱えたまま臨んだオリンピックでは、厳しい現実を突き付けられることに。
引退か、続行か、悩んだ末に選んだ第二の人生とは?涙から笑顔へ。石井選手が歩んだ軌跡を追いました。
東京オリンピック延期 気持ちの整理つかず不調の日々
(石井)「自分の気持ちと体とのギャップがすごくあって…。そこが苦しい。」
涙をこらえながら胸の内を明かしてくれたのは、東京オリンピックの開催延期が発表されて半年後、2020年9月のことでした。
(石井)「本当にいろんな感情があるので、すごく苦しいんですけど。でも本当に選手もスタッフもみんな待ってくれてる・・・。」
ぽっかり空いた1年の空白。アスリートたちの心には様々な感情が渦巻き、石井選手自身も、もがき苦しんでいました。
岡山県出身。地元の強豪・就実(しゅうじつ)高校を卒業後、2010年に国内リーグ「Vリーグ」の久光スプリングスに入団。エースアタッカーのポジションであるアウトサイドヒッターとして活躍し、攻守に優れたチームの中心選手です。2016年のリオオリンピックでは、日本の5位入賞に貢献しました。そして東京オリンピックを集大成に、29歳で引退。そんなビジョンも視野に入れていたといいます。
(石井)「もちろん東京オリンピックで結果が残れば一番いいですけど、結果が残らなかったとしても、自分は精いっぱいやり切ったと思ったら気持ちよく引退できると思うし、それでもまだやっぱりバレーが好きで、自分でもまだ成長できると思ったら、続けると思います。そこはその時になってみないと分からないかな。」
不安抱え、東京五輪開幕。エース負傷で日本ピンチ
心境をカメラの前で語ってから1か月足らず、 2020年10月にVリーグが開幕。石井選手は気持ちを奮い立たせながらバレーボールに向き合うも、調子は上がらず、葛藤の日々が続きました。
そして迎えたオリンピックイヤー。2021年7月、代表の会見でも、石井選手は不安を口にしていました。
(石井)「本当にコンディションが上がらなくて、自分の中ですごく苦しんでいて、そんな中でまた今シーズンの代表として呼んでいただいたので、やっぱりできることはやらないといけないという思いで、オリンピックまでに仕上げないといけないなと思います。」
そんな思いをよそに、東京オリンピックが開幕。1年待ったアスリートたちは、その鬱憤を晴らすかのように躍動し、日本はメダルラッシュに沸きました。
そうした中、女子バレーボールの予選も始まりましたが、ケニアとの第一戦、石井選手はスタメンではなく、ベンチからのスタート。そこで日本にアクシデントが発生。相手の攻撃をブロックしようとジャンプしたエースの古賀紗理那(こがさりな)選手が着地に失敗し、右足首を負傷。同じエースポジションの石井選手が急きょ出場することになったのです。
途中出場で奮闘も、まさかの予選敗退
自身2度目の夢舞台。堅い表情のまま、コートに立った石井選手でしたが、いざ試合が始まると、次々と得点を重ね、若きエースの穴を埋めようと30歳のベテランアタッカーが持てる力を出し切り躍動。いつしか表情も緩み、そこには純粋にバレーボールを楽しむひとりのプレーヤー、石井優希の姿がありました。
チームにリズムが生まれ、結果はケニアに3-0のストレート勝ち。しかし、その奮闘も虚しく、歯車がかみ合わなかった日本は2戦目のセルビア、3戦目のブラジルに大敗。大一番の4戦目ではフルセットの末、韓国に3敗目を喫し、予選リーグ敗退。夢の舞台は悔しい結果に終わりました。
(石井)「オリンピックの予選敗退って数十年ぶりだったので、本当に申し訳なさは残ってるんですけど、集大成として挑んだ東京オリンピックで悔いなく終わろうっていうのはずっと思っていたので、やり切ったっていう気持ちはすごくありました。」
引退か、選手続行か・・・選んだ道は?
東京オリンピックを終え、一時は引退を考えたという石井選手。しかし休養を経て、気持ちに変化が生まれます。
(石川)「あと何年できるかわからないバレー人生を素直に楽しもうと思えたので…。」
そして、2021年のVリーグが開幕。石井選手は久光スプリングスの頼れるエースとして、再びコートに立っていました。さらにリーグ休止を挟んで行われた、去年12月の皇后杯で久光は決勝に進出。強豪、東レアローズとの日本一をかけた一戦で、石井選手は次々とポイントを重ねます。
(石井)「今シーズン、すごいバレーボールが楽しくて、久しぶりにこういう気持ちでシーズンを戦ってるなっていう、何か新しい自分が今いて。」
バレーボールが楽しい…、新しい自分を見つけた彼女の気持ちと呼応するように、チームはひとつにまとまっていきます。そして今シーズン一度も勝てなかった東レに勝利。帰ってきたエースがチームを3年ぶりの日本一に導きました。
(石井)「私自身、日本一に帰ってこれたなって思って、すごくうれしくて。若い子もみんな日本一を経験できたのが、すごくうれしいです。」
チームに必要とされているーそれが石井選手の頑張る原動力。インタビューで流した涙は、やがて笑顔へと変わりました。
快進撃は続き、ことし4月のVリーグでは、上位を争うNECを下し、3シーズンぶりのリーグ優勝を勝ち取りました。石井選手が気持ちで放った強烈なスパイク、チームメイトも必死にボールをつなぎ、流れを引き寄せた久光が皇后杯に続く快挙を成し遂げたのです。
涙の先に見つけた新しい自分「今はまた、バレーが楽しい」
オリンピック延期から2年。石井選手にとってそれは、自分を見つめ直す時間でもありました。
(石井)「すごく濃かったです。欲があったので…。自分が誰よりも点数取りたいとか、絶対試合に出たいってずっと思ってやってきたんですけど、それだけが仕事じゃないなって気付いたのが、昨シーズンのプレーにもつながったので。これでいいんだって思えたら楽になったし、第二の石井優希を見つけたなって思ってるので、今はまた楽しい。楽しくバレーができてます。」
何度も自分を見失いながら、何度も生まれ変わる。葛藤の日々を経て、自分の原点にたどり着いた石井選手。それは心からバレーボールを楽しむこと、涙の先に見つけた新たな自分。第二の石井優希のバレーボール人生は、スタートしたばかりです。
(読売テレビ「あすリートPlus」9月4日放送)
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