2年ぶりの開催となったJOCジュニアオリンピック都道府県対抗中学バレーボール大会。将来の日本バレーボール界を担う中学生年代の発掘と育成を目的に設立され、各都道府県の選ばれた選手たちが一堂に会し、シーズンの集大成として頂点を争うこの大会。ここを経たのちに「春高バレー」で活躍する選手や、日本を代表して世界へ羽ばたく選手も数多く、将来を有望視されるバレーボーラーの祭典ともいえる大会です。
あすリートチャンネルでライブ配信された男子決勝戦の解説を担当したのが、東京オリンピック男子バレーボールチームを指揮し、29年ぶりの決勝トーナメント進出、ベスト8という成績を残した中垣内祐一さんは大会終了後の9月に日本代表監督を勇退。現在は古巣でもあるVリーグ・堺ブレイザーズの強化本部長として古豪ブレイザーズ復活へ邁進しています。
その中垣内さんが解説した男子決勝戦は東京都選抜と香川県選抜の対戦となりました。試合は今年の全中バレー優勝の足立区立渕江中学校の川野琢磨選手を筆頭に、全中出場選手9人を揃える東京都選抜が、初優勝を目指す香川県選抜を2−0で下し、8年ぶり6度目の優勝を果たしました。
中学生年代のトップ選手たちが集うこの大会を振り返り、日本代表を率いた中垣内さんだからこそ感じた日本バレーボール界の未来について語ってもらいました。
聞き手 尾山憲一(ytvアナウンサー)
放送席からみたJOC中学バレー
ーー日本のコートサイドに立ち続けた5年間を経て、改めて放送席から見たバレーボールはいかがでしたか?
そうですね、やっぱり無我夢中の5年間でね。コートサイドにいると時間が経つのがすごく早かったなという感じですね。まあ自分ではあんまり気にしていなかったんですけど、終わってみるとすごいプレッシャーだったんだなというふうに感じますね。
ーー日本代表を29年ぶりのベスト8へと導いた中垣内さんから見て、今日の決勝戦はいかがでしたか?
やっぱりね去年、今年もそうですけども、コロナで満足に練習もできなかったところもあると思うんですよね。なのでその完成度という意味ではいつもよりもちょっと下がるかもしれないですけども、それでもコートの中で自分たちの持てるものを全員で発揮しようという意思がお互いに見えましたよね。見ていて面白かったですね。
■毎年、多くの保護者、応援団がスタンドを埋め、選手に負けないほどの熱い声援を送っていたこの大会でしたが、新型コロナウイルスの影響で、昨年は大会中止。今年は無観客開催で、少し寂しい雰囲気の中での開催となりました。
ーーお客さんがいないっていう意味ではちょっと寂しい部分もありましたけれども?
できることならやっぱり観客の歓声の前で試合させてあげたいと思います。オリンピックでの私たちもそうでしたけども大観衆の前でやっぱりプレーすることで選手たちは勇気づけられ、後押しをしてもらってプレーできるので、できることならそうしてあげたかったというふうに思います。
ーーまず優勝した東京都選抜はどこが良かったですか?
やっぱりボール扱いにしてもやっぱり上手ですよ。バレーボールの基礎が非常に出来てると思いました。そういった地力のアドバンテージを香川県相手にも冷静に発揮できたと思いますね。中には幼稚園児から始めたという子もいる(川野琢磨選手10年、高澤大馳選手9年)ということでしたけど、この中学生年代だとやっぱりキャリアの長い方がボールを上手く扱える気がしますね。
ーー準優勝となった香川県選抜の印象は?
チームで非常にムードを作るのが上手くてね、本当に走り回って。監督も先頭に立って走り回ってやる彼らのスタイルっていうのは、準決勝まで見てても本当に存分に発揮されたと思います。プレーではセッター(井内優輝選手)を中心としたコンビバレーの力を発揮し続けられたと思いますけど、結果としては東京の方が一枚上手だったのかなとは思います。
ーー今大会を見られて、今の中学生のレベルはどう感じられていますか?
日本代表で見たプレーを試す、そういった真似をするようなシーンがすごく見られたので、日本代表も中学生年代の強化の役に立ってるなって思いました。今日は日本代表の真似だと、明日はロシアの真似だ、ブラジルだとかね。高いレベルのいいところを見つけ出して、自分たちのものにしてほしいなって思いますね。今は世界中どこでも、地球の裏側の試合だって、どこのクラブの練習だって見れますからね。だからそういう意味ではどんどん練習にも取り入れてもらいたいし、トレーニング方法であるとかいろんなことも学べると思うんですよね。どんどん自分たちのレベルを上げるのに役立ててほしいなと思いますね
ーーその一方で、中学生の今だからこそ大切にしてほしいこと、今だからこそやらないといけないことがあるとしたら、どういうことでしょうか?
僕はね、これは大人になってからも大事なんですけども、やっぱり友達との付き合い方を大事にしてほしいです。仲間とやるスポーツじゃないですか、バレーボールって。仲間ととその目標をしっかりと共有して、その過程をどんどんどんどん乗り越えていく、目標をクリアしていく過程をね、苦しんで苦しみながらやってもらいたいと思いますね。レシーブする人がいてトスを上げられる訳だし、トス上げる人がいてスパイクを打てるわけですから。バレーボールは人の手助けになることをし合うスポーツですからね。
そして、彼らにはこれからもどんどんどんどん今みたいな顔で頑張ってほしいなと思うんですよね。子供らしいというか中学生らしい表情でね。一生懸命やる、ひたむきにやるっていうことを、本当に大事にしてもらいたいなと思いますね。
将来のバレーボール界を担う若き才能へ
■将来のオリンピック選手の発掘を目的とするJOCジュニアオリンピックカップ都道府県対抗中学バレー。今年の大会からも将来有望な選手が表彰されました。
JOC/JVAカップ
東京都選抜 川野琢磨 (足立区立渕江中学校3年/188cm)
大阪北選抜 西村美波 (金蘭会中学校3年/176cm)
【オリンピック有望選手】
東京都選抜 川野琢磨 (足立区立渕江中学校3年/188cm)
岡山県選抜 神﨑優 (金光学園中学校3年/193.6cm)
東京都選抜 秋本美空 (共栄学園中学校3年/181cm)
大阪北選抜 西村美波 (金蘭会中学校3年/176cm)
大阪南選抜 村瀬アンジェリーナ梨里 (城南学園中学校3年/180cm)
ーーこの大会は将来のオリンピック選手を発掘するという大きな目標がありますが、彼らにはどのように育ってほしいか?また、どうすれば日の丸を背負える選手に成長できるでしょうか?
まだ中学生だからといっても、すぐ大人になってしまう。それこそすぐ引退の時期が来てしまう。本当に一分、一秒が大事だということ。練習の1本1本一日一日を本当に大事にしてもらいたいと思いますね。
それから、目標は高ければ高いほどいいんじゃないかと僕は思うんですよね。将来オリンピックに出るとか、日本代表になる。あるいはイタリアでプレーするとかね。そういった目標もやっぱり大事にして、忘れずに努力して、貪欲に努力していく。そういったことが非常に重要なことだと思います。
今日バレーボールを始めた子が、明日、石川祐希くん(パワーバレー・ミラノ/イタリア)みたいなプレーできますか?当然できないですよね。常々ちょっとずつ、一日1ミリのアップかもしれないけれど、それを繰り返していくことが重要だと思います。
ーーその一方で中学まではバレーボールを経験していなかった山内晶大選手(パナソニックパンサーズ)のように高校からバレーボールを始めて日本代表になる選手もいるという意味では、他の競技からバレーボールに入ることも有りなのでしょうか?
もちろんそうです。大有りです!山内なんかも、ここからだと思いますけど、そこに並々ならぬ努力があったからだと思います。
必ずしもバレーボールをやり続けないとトップクラスの選手になれないかというと、そうでもないかもしれません。私なんかも実際そうですけども、小学生の時なんて全然バレーボール部もやってなかったし、高校時代もほぼほぼやってなかったもんですから。それでも日本代表になるということは可能ですけども。ただ自分を振り返ってみると、僕には本当に、明確な大きい高いところに目標がなかったです。だから無駄な時間過ごしたなって思うんですよ。努力していくこと、向上心を持ち続けることって大事だと思うんですけども、そのためにはやっぱり目標がないとできないんですよね。
ーーしかし、この大会でも中学校からバレーボールを始めた選手と、経験が長い選手ではやはりプレーの差が出てしまいますね?
この時点では負けちゃうかもしれないよね。でも最後はそうじゃないことも十分ありますし。この試合で負けたからって、この試合に出られなかったからって悲観することないわけです。高校でも大学でも、あるいは社会人になってもカバーすることは可能です。本当に継続は力なり!
東京オリンピック7位 日本の立ち位置は?
■日本代表監督として中垣内さんが率いた龍神NIPPON。東京オリンピックでは29年ぶりの決勝トーナメントに進出。準々決勝でFIVB世界ランキング1位、前回王者のブラジルと対戦し、セットカウント0−3(20-25、22-25、20-25)のストレートで敗れ、7位という成績を残しました。
ーー中垣内さんが経験されました今回の東京オリンピック。世界の中での日本の立ち位置、世界との差という部分に関してはどのように感じていますか?
だいぶは縮まったとは思いますね。やはり新しい戦力が年々入ってきて、例えば私が入ってから西田有志(ビーボ・バレンティア/イタリア)が入り、リベロの山本智大(堺ブレイザーズ)が入り、最後は髙橋藍(パッラヴォーロ・パドヴァ/イタリア)が入りと、新しい戦力の増強があってどんどんチーム力は上がっていったとは思います。諸外国の監督なんかも「日本侮れなくなってきたぞ」というふうに思っているチームは多いと思いますし、実際に海外の監督なんかから、そういう声も聞いてますしね。
ただ怖いのはやっぱり、今年5月に西田が捻挫してしまい、どうかなって正直思いましたけども。我々は小さい選手で もう本当にめいっぱい動きながらプレーするもんですから、めいっぱいエンジン回しながら。1つの故障で大きく歯車が狂ってしまうことも考えられるので、やっぱりケガっていうのは怖いものですね。それぐらい追い込まないと、なかなか今のような成績というのは出てこないと思いますしね。身長2メートルで、1メートルくらいジャンプする選手がボコボコいれば話は別ですけども。なかなか我々の持ってる戦力ではそこまで望めませんので、今ある戦力でどう解決策を見出していくかということを日々考えながらやっていった結果ではあると思います。
ーー選手の底上げはもちろんでしょうが、ファンの皆さんの声援というのも大事ではないでしょうか?
東京オリンピックで男子バレーも少しは存在感を示せたんじゃないかなというふうに考えますけども、Vリーグになって観客の制限なんかもあったりして、なかなか結びついていかないなというところも感じるんですよね、もどかしさを感じるんですけども。どんどんどんどんバレー界を活性化すればするほどで、興味みたいな中学生がどんどん新しく入ってきて裾野が広がってくれれば、その中からまた新しい有望な選手が発掘、強化されてくるんじゃないかなと思います。そういう循環するようなバレー界であってほしいと思いますね。
中垣内さんからのメッセージ
■5年間に及ぶ日本代表監督を退任した中垣内さんは、古巣の堺ブレイザーズの強化本部長に就任。ブレイザーズ復活に向け、チーム強化に邁進する日々を送っています。
そのVリーグは年明け1月8日9日から再開。バレーボールファンにとって日常が戻ってきます。最後に、JOC中学バレーのような選抜選手だけでなく、バレーボールを楽しみたい中学生、バレーボールファンに中垣内さんからメッセージをいただきました。
決して勝った負けたと争うようなトップクラスだけがバレーボールの楽しみ方ではないと思うんです。そこにはママさんバレーのような毎日和気あいあいとするようなバレーボールがあってもいいと思うし、円陣パスをするようなのがバレーボールであってもいいと思うんです。でも目標を決めてクリアしていくってことは、それぞれの目標のレベルに関係なく同じだと思うので、やっぱりバレーボールを楽しんでやってもらいたいなと思うんです。
バレーボールってね、やっぱり敷居が高いと思われがちなんです。なんでかっていうとボールを持てないのでつながらないんですよね。技術がないとパスが続かない 技術がないとサーブが入らない、入ってきたサーブを返せない。バレーボールってある程度の技術がないと、非常につまらないものになってしまうんです。
なのである程度の技術を身につけていけば、ちっちゃい階段を毎日登っていけば、だんだん楽しくなってくるもんなんですよね。
毎日ちっちゃい目標をクリアしていくことを楽しみとして、続けてもらいたいなと思います。
中垣内祐一(なかがいち・ゆういち)プロフィール
1967年11月2日 福井県福井市出身
福井・藤島高から筑波大を経て新日本製鐵(現 堺ブレイザーズ)でプレー
1989年 筑波大在学中に日本代表初選出、跳躍力を武器にウイングスパイカーとして活躍
1992年 バルセロナ五輪では6位
2000年 シドニー五輪出場を逃し、代表を引退
2004年 堺ブレイザーズで現役を引退
2011年 4月から2013年1月まで男子日本代表のコーチを務め、2017年から日本代表監督に就任
2021年 東京オリンピック7位の結果を残し、日本代表監督を勇退
2021年10月 堺ブレイザーズ強化本部長に就任
▼ 今大会の動画アーカイブはこちらをクリックしてご覧下さい。
女子準決勝 静岡県 vs 愛媛県
大阪北 vs 福井県
男子準決勝 東京都 vs 岡山県
熊本県 vs 香川県
女子決勝 愛媛県 vs 大阪北
男子決勝 東京都 vs 香川県
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