美脚・美腹筋のモデルジャンパー 走り幅跳びで世界を目指す
走り幅跳びで日本屈指の実力を持つ、秦澄美鈴(はたすみれ)選手(26歳・大阪府八尾市出身)。
細身の引き締まった体に割れた腹筋、そしてすらりと長くのびた手足。アスリートとして活躍する一方で、所属企業「シバタ工業」の製品モデルも務める「モデルジャンパー」でもあります。
もともとは走り高跳びの選手でしたが、大学から走り幅跳びを始め、わずか3年で、日本選手権準優勝を果たしました。今や、国内に敵なしの彼女が次に目指すのは世界の舞台。ひたむきに努力を続けるロングジャンパーの挑戦を追いました。
目標はオリンピック出場、大学卒業後は実業団の道へ
秦選手を始めて取材したのは4年前。彼女が大学4年生の時でした。
(秦)「陸上競技をしている上で1番の目標はオリンピックなので、あと2年、本当に東京オリンピックを目指して、しっかりと記録も上げつつトレーニングを頑張っていきたいなと思っています!」
翌年、大学を卒業し、シバタ工業に入社。社会人として競技を続ける道を選びます。会社にとっては初のアスリート社員、期待も高まる中、秦選手はプレッシャーと闘う日々を送っていました。
(秦)「うまくいかない日って絶対あるし、そういう日もあって当然、っていうのは自分の中でも重々承知しているし、もしこのまま上がってこられへんかったらどうしようっていうのは最近ありますね。そういうので不安にはなります。」
不安な毎日を送る秦選手、陰で支えていたのは、陸上競技に打ち込む彼女をずっと見守ってきた両親でした。ひとり立ちした娘に、母・美穂さんはエールを送ります。
(母・美穂さん)「卒業した後は、家から出てほしくはなかったですけど、自分が決めた道なので出しました。自分のことは自分でして、自分で自立しているっていう自信につながってるんじゃないかな。」
重圧の中勝ち取った日本一 母から娘へ一通の手紙
社会人アスリートとして迎えた最初の大舞台は、前の年に準優勝した日本選手権。求められるのは日本一のタイトルです。さらなる結果が問われる大会に、お母さんも大阪から福岡まで応援に駆け付けました。
支えてくれた家族に、結果で恩返しを…。しかし、その想いをくじくかのように、突然の豪雨。滑りやすく、体も冷えやすい悪条件の中、競技はスタートしました。
逆境をはねのけるように…思い切り飛び出した1回目、惜しくも踏み切りラインをわずかに超えてしまい、ファウルの判定で、記録はなし。
雨がやんだ2回目も、ファウル。あとがない3回目(3回目までの結果で上位8名が4回目に、6回目までの跳躍で順位を決める)。ひるまず飛び出し、6mを超えるジャンプで、暫定トップに立ちます。
優勝がぐっと近づき、秦選手も安堵の表情を見せました。しかし、すぐほかの選手に追い抜かれます。勝負の5回目、長い手足を大きく反らした大ジャンプは6m41、続く6回目も6m43と記録を伸ばし、見事、優勝!新たな環境と重圧の中で最高の結果を出しました。
豪雨の中、ずっと見守っていた母・美穂さん。日本一になった娘へ、一通の手紙をしたためていました。
「一人暮らしをして、食事や体のメンテナンス、心配事などを聞いてあげられる機会も少なくなったけど、出る大会で良い記録、良い結果が出ていることは頑張っている証拠ですね。今日は雨の中とってもよく頑張ってました。表彰台乗れたね。おめでとう。これからもたくさんの人たちの 応援を力にして美しく跳べ!澄美鈴! ~母より~」
お母さんからの暖かい言葉に、感謝の気持ちがこみ上げます。
(秦)「『頑張れ』ってあんまり言ったらあかんかなって思ってた時期もあったと思うんですけど、今は『頑張れ』って応援されるのが、すごいうれしいです!」
夢舞台には立てず…憧れで終わった東京オリンピック
迎えた東京オリンピック。アスリートたちの夢舞台に、秦選手の姿はありませんでした。オリンピックイヤーのはずだった2020年は、日本選手権3位。そして2021年は優勝(6m40)も、参加標準記録に届かず(6m82)、東京オリンピック出場はなりませんでした。テレビの向こうで活躍する一流選手たちを見て抱いたのは、悔しさよりも“憧れ”の気持ち。再び、世界への挑戦を決意します。
(秦)「それはやっぱり両親のため。私がまだ全然、記録を出してない時期から、ずっと応援してくれてますし、それに応えようと思って競技をできることが、やりがいです。」
コーチ 「ちょっと磨いただけで日本一、これは面白い!」秦選手の底知れぬ才能
世界の扉を開きたい。次に秦選手が目指すは、アメリカで開催されるオレゴンの世界選手権です。
一度は夢破れても、明るく元気に練習に励む秦選手。彼女の才能を見出したのは、かつて走り幅跳びの日本記録保持者を育てた名コーチ、坂井裕司さんです。高校までは走り高跳びの選手だった秦選手に坂井コーチの期待は膨らみます。
(坂井)「むちゃくちゃな助走で、むちゃくちゃな跳躍で…。秦選手はダイヤモンドの本当の原石ですよ!ちょっと磨いただけで日本選手権1番やから、もっときちっとやれば、絶対変わってくる。これはおもしろいと思いました。」
世界と戦うために、筋力アップにも取り組み、地道にトレーニングを続けました。そして今年6月、地元、大阪で行われた日本選手権では、積み重ねてきた努力の成果をいかんなく発揮します。秦選手は6m43の跳躍を見せ、笑顔のガッツポーズ。もう日本国内に敵はいません。
危なげなく優勝し、世界陸上の切符を手にしました。(参加標準記録は届かずも、世界ランキング上位のため代表選出)
(秦)「一番最初に伝えたのは家族です。LINEで『内定したよ。発表まだやから、まだ喜ばんといて』連絡しました。世界選手権は予選突破を目指して、自分の力を一番出し切った跳躍ができるように頑張りたいと思います」
憧れを現実にーパリを目指して、跳んで…跳んで…跳び続ける!
いよいよ、自身初となる世界陸上へ。しかし、実力を発揮できず予選敗退。世界の扉は、想像以上に重たいものでした。
(秦)「世界の舞台を経験すると 世界のトップ選手と壁を感じるとか言う方もいらっしゃるじゃないですか。でも私の場合、壁すらも感じなくて、いい経験ではあるけど、何か現実を突きつけられたなっていう感じです。」
実力の差を目の当たりにした世界選手権。しかし、その1か月後の9月には失意のどん底から這い上がり、自己ベストを更新します(6m67)。再び世界へ挑戦するため、落ち込んでいる暇はありません。
(秦)「来年の世界陸上は今年できなかった決勝進出を目標に、パリオリンピックではしっかり世界と戦えたっていうふうに言いたいので、そこに向けて、先を見据えて、どんどんどんどん突き進みたいなと思っています。」
経験は浅くても、夢を目指すチャンスは、みんな一緒。秦選手は応援してくれる家族のため、跳んで、跳んで、どんどんステージを上げて、跳び続けます。いつか世界の舞台で、ビッグジャンプするその日まで…。
(読売テレビ「あすリートPlus」12月11日放送)
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