小さな体で世界と対等に!日本女子トライアスロン界を引っ張る上田藍選手
世界一過酷とも言えるスポーツ、トライアスロン。1.5キロのスイム・40キロのバイク・10キロのランの3種目のペース配分の難しさに加え、自然を相手にするだけに、どんなコンディションでも最高のパフォーマンスを出そうとする強い精神力が必要とされます。
そんな中、世界の強豪たちと堂々と渡り合うのが、京都市出身の上田藍(うえだあい)選手、39歳(リソル・稲毛インター所属)。155センチ、45キロという体から驚異的なパワーとスピードを生み出します。小柄な分、スイムでの出遅れを得意のラン勝負に持ち込み、逆転するのが彼女の勝ちパターン。
2008年にアジア選手権で優勝し、初めてオリンピックの出場権を手に入れると、北京・ロンドン・リオデジャネイロと3大会連続でオリンピックに出場しました。2016年にはアジア初の世界ランキング3位にランクイン。
20年の競技生活のうち、世界大会で29回優勝、51回表彰台に立つなど、圧倒的な数字を残しました。常にポジティブな性格も含めて、世界中の選手から尊敬される存在となりました。
アクシデント続き…壮絶な競技生活を送った20年
地元・京都の洛北高校を卒業後に飛び込んだトライアスロンの世界。ここまで20年の競技生活はケガとの戦いでもありました。特に、4度目のオリンピック出場を目指していた2019年には、選手生命を脅かす2度の大けがを負いました。
3月にドバイでの選考レースで、バイク走行中に他の選手と接触して転倒し、そのまま動くことができませんでした。
(上田)「目の前を走る選手が斜行して前輪を飛ばされてしまって落車したんですけど、気がついた時には救急車で運ばれていて。肺気胸と脾臓の裂傷と外傷性くも膜下出血で、そのまま入院しました」
現地での手術と治療を終えて帰国後、わずか1ヶ月半でレースに復帰した上田選手。同年6月のワールドカップとアジア選手権で見事優勝を飾ります。
しかし7月。ドイツでのレースで2度目の大けが。得意の種目・ランでラスト300メートル。スパートをかけた瞬間に左足に異変を感じました。
(上田)「過去に外傷性くも膜下出血や捻挫をした時に、コーチやトレーナーなど支えてもらいながらすぐに復活してレースでいいパフォーマンスを出したという成功体験があったので、ケガをしても、それは次のオリンピックに向けて必要なことだというマインドになるように鍛えられていました。でも、ドイツでのレース中に、パーンと音がして…足底腱膜を断裂してしまったことは大きな出来事でした」
これまでは、挫折を味わうたびに驚異の回復力を見せてきた上田選手ですが、この7月のケガが原因で選考基準を満たせず、東京オリンピック出場を逃してしまいました。「次のパリオリンピックも狙える!」という周囲の期待もありましたが、スポンサーの契約は切れ、強化選手からも外れました。
(上田)「選ばれなかったことに対しての悔しい思いをどう乗り越えるかということには、けがをした時よりも結構時間がかかりましたね」
「まだまだ世界に挑戦していきたい」プロのアイアンマンレーサーへ
目標を失ったかに思われた上田選手。しかし、新たな決断がありました。トライアスロンで戦う距離の4倍を超える約226キロを10時間以上かけて走破する鉄人レース、アイアンマンへの挑戦です。
(上田)「まだまだ世界に挑戦していきたいという思いと、プロのカテゴリーで頑張っている選手を一緒に盛り上げてほしいという言葉を周囲からもらっていたので、アイアンマンにチャレンジしようと踏み切りました」
まだ東京オリンピックの余韻が残る2022年。上田選手は大きな荷物を抱え、レンタカーで1人、長野県へ出向き、孤独な合宿をスタートさせました。日本女子でほとんど前例のないプロのアイアンマンレーサーとして、単独で海外へ乗り込みます。始動して2か月後の同年4月には、早くもフルレースで初完走。
さらに10月、アメリカ・テキサス州のハーフレースで初優勝を飾ります。その時に笑顔で切ったゴールテープは、地元・京都の両親のもとに届けました。時差があって日本時間の夜中に行われるレースでも、携帯電話やパソコン、有料配信などを駆使して家族みんなで上田選手を応援してくれています。
(上田)「両親は、アイアンマンは応援するほうも体力がいるなと言いながら私と一緒になって戦ってくれています。“頑張っていれば藍はいつか絶対勝てるから”と言い続けてくれていたので、“私は頑張っていればいつか勝てる”と思える心は両親が作ってくれました」
特注自転車を新調!プロとして世界最高峰の大会へ
今、上田選手の最大の目標は、世界最高峰のレースであるハワイ・コナの世界選手権にプロのアイアンマンレーサーとして出場することです。
(上田)「コナの世界選手権は、世界各地に散らばっているたくさんのトップ選手たちが集結する大会。自分もしっかり肩を並べて戦える選手になっていかないといけない。トップ選手たちとの差はまだ大きいので、今年ぎゅっと詰められるように、しっかりと鍛えていきたいなと思っています」
世界選手権という目標のために今シーズン、アイアンマンレース専用の自転車を調達しました。自らもアイアンマンレースの出場経験が豊富な田中信行さんが設計した自転車は、上田選手の体の特徴やレーススタイルに合わせていて、世界にひとつしかない大きな武器です。
(田中信行さん)「アイアンマンレースでは自転車の形状やライディングポジションで空気抵抗を抑えることが重要です。空気抵抗を抑えるために選手はどんどん体を下げていきますが、窮屈な姿勢をとることによって次のランに影響が出るんです。藍ちゃん(上田選手)の場合はランが非常に強いので、バイクをできるだけ楽な姿勢で乗ることができれば、ランに好影響を与えて記録アップにつながるのではないかと思います」
(上田)「得意なランで勝負を決めるために、バイクで前を詰めていかなければいけない。私専用のバイクと一緒に、コナでいいチャレンジができればいいですね。コナに、出ないとダメですね!(笑)」
今年もすでに4つのアイアンマンレースを走り終え、自己最高の5位を記録した上田選手。小さな鉄人は、挑み続けます。
上田 藍 ueda ai プロフィール
1983年10月26日生まれ 京都市出身 39歳
京都・洛北高校2年生の時にトライアスロンを始める。
155センチ44キロ
2008年の北京五輪からロンドン・リオと3大会連続で五輪日本代表。
ワールドトライアスロン 20年間で210戦出場し29レースで優勝、51回表彰台
国内では日本選手権 女子最多5度の優勝
番組ナビゲーターは能見篤史さん
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目指すは世界最高峰の舞台!トライアスロンからアイアンマンの舞台へ~アイアンマンレーサー・上田藍
毎週日曜日 あさ6:00 読売テレビ地上波で放送
新番組 「あすリートPlus」 は、読売テレビで毎週土曜日に放送中の「あすリート」の拡大版として、
2022年4月にスタートした関西のアスリートたちを紹介、追跡取材してご紹介する番組です。
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(読売テレビ「あすリートPlus」5月7日放送)
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